1本の歯から何がわかる?出生年・年齢・DNAなどを読み解く最新研究

イラストこんにちは。大垣市のおおた歯科クリニック院長、歯科医師の太田雅司です。

「歯は、口ほどに物を言う」という言葉があります。

実は歯には、単に「どんな治療を受けたか」という記録だけでなく、その人の身元を調べるためのさまざまな情報が残されていることがあります。

2026年8月、東京科学大学を中心とした研究チームが、1本の歯から出生年や死亡時年齢、薬物に関する情報、性別、DNA型など、複数の情報を同時に調べる方法について報告しました。

今回は、この興味深い研究について、歯科医師の立場から分かりやすく解説します。

 

1本の歯から何が分かるの?

今回の研究では、白骨化や高度な腐敗が進んだご遺体から採取した下顎の第一小臼歯を分析しました。

1本の歯を複数の組織に分け、それぞれの性質を利用して、異なる分析を行っています。

研究で調べられた主な情報は次のようなものです。

  • 出生年
  • 死亡時年齢
  • 生前の薬物・薬剤に関する情報
  • 性別
  • DNA型
  • 生前の地域に関する情報を推定する手がかり

ただし、すべての情報が同じ精度で特定できるわけではありません。

特に地域については、今回の研究では既知の情報と矛盾しない結果が得られたものの、地域を明確に特定できたという段階ではありません

そのため、今後さらに精度を高める研究が必要とされています。

なぜ歯から出生年が分かるの?

その理由の一つが、歯の一番外側にあるエナメル質です。

永久歯のエナメル質は、形成された後に新しく作り直されることがありません。

そのため、歯が形成された時期の環境に由来する情報が、長期間残されています。

今回の研究では、その中でも**炭素14(^14C)**に注目しています。

1950年代から1960年代にかけて行われた大気圏内核実験によって、大気中の炭素14濃度は大きく変化しました。

この変化は「ボムカーブ」と呼ばれる特徴的な曲線として知られています。

歯のエナメル質に残っている炭素14の量を調べ、この変化と照らし合わせることで、歯が形成された時期を推定する手がかりを得ることができます。

ただし、炭素14の値だけでは候補となる年が複数出る場合があります。

そこで研究チームは、別の分析方法も組み合わせました。

歯の中に「年齢の手がかり」も残っている

歯の内部にある象牙質では、アミノ酸の一種であるアスパラギン酸の変化を利用して、年齢を推定する方法が研究されています。

アミノ酸は時間の経過に伴って、L型からD型へ変化していきます。

この現象を利用したのがアミノ酸ラセミ化分析です。

今回の研究では、この方法によって死亡時年齢を推定し、その結果を炭素14による出生年の推定と組み合わせました。

その結果、15例中14例で実際の出生年を含む候補が得られ、複数の分析結果を組み合わせることで出生年の推定精度が向上しました。

歯から薬物やDNAまで調べられる

今回の研究で特に興味深いのが、年齢や出生年だけではありません。

歯の内部にある歯髄を利用して、薬物・薬剤に関する毒物学的な分析も行われました。

251種類を対象とした分析では、15例中9例で、解剖時の検査結果や生前の薬物使用に関する情報と一致する成分が検出されています。

さらにDNA分析では、15例すべてで性別を判定することができ、12例では個人識別に利用できる十分な数のSTR型が検出されました。

つまり、1本の小さな歯の中に、

「いつ生まれたのか」
「何歳で亡くなったのか」
「どのような薬物・薬剤の情報が残っているのか」
「性別は何か」
「DNA型は何か」

といった、身元確認につながる複数の手がかりが保存されている可能性があるのです。

災害や身元不明者の身元確認にも期待

このような研究は、単なる科学的な興味だけでなく、法医学・法歯学の分野でも重要な意味を持ちます。

大規模な災害や事故などでは、時間の経過や火災、腐敗などによって、ご遺体の外見から身元を確認することが難しくなる場合があります。

そのような場合、歯科所見やDNAなどが身元確認の重要な手がかりになります。

今回の研究は、従来の歯科記録やDNA鑑定だけではなく、歯に残された化学的な情報も組み合わせることで、身元確認に利用できる情報を増やせる可能性を示したものです。

ただし、今回の研究は15例を対象とした研究であり、すぐに一般的な身元確認に利用できる完成された検査方法というわけではありません。

今後、より多くの事例で精度や再現性を検証し、実際の法医学・法歯学の現場で利用できる方法として確立されることが期待されています。

歯科医院の記録も身元確認に役立つことがあります

今回の研究とは少し別の話になりますが、歯科医院で残される記録も、身元確認において重要な意味を持つことがあります。

歯の形や治療痕、詰め物・被せ物の状態、レントゲン画像などは、一人ひとり異なる特徴を持っています。

そのため、法歯学では、生前の歯科記録とご遺体の歯の状態を照合することによって、身元確認につなげる方法があります。

普段は何気なく受けている歯科診療ですが、そこに残される診療記録や画像は、その人のお口の状態を記録した大切な情報でもあります。

当院、おおた歯科クリニックでも、診療の際にはお口の状態や治療内容を記録し、継続的な診療に役立てています。

まとめ|1本の歯にも、その人を知るための情報が残っている

今回の研究から分かるのは、歯が単なる「噛むための器官」ではないということです。

エナメル質や象牙質、歯髄など、それぞれの組織が持つ特徴を分析することで、

  • 出生年
  • 死亡時年齢
  • 薬物・薬剤に関する情報
  • 性別
  • DNA型

など、身元確認につながるさまざまな情報を得られる可能性があります。

もちろん、今回の研究結果だけですべての情報を正確に特定できるわけではなく、まだ研究段階の技術も含まれています。

それでも、「たった1本の歯から、これほど多くの情報を調べられる可能性がある」というのは、歯科医師としても非常に興味深い研究です。

普段の生活では意識することの少ない「歯」ですが、自分の健康を守るだけでなく、医学や法医学の分野でも重要な役割を果たしています。

大切な自分の歯を長く残すためにも、痛みや違和感がなくても定期的に歯科医院でチェックすることをおすすめします。

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上記の内容は記事執筆時点の情報です。

治療法・使用材料・診療内容・治療費等は変更となる場合があります。あらかじめご了承ください。

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